第85号 中国共産党大会(下) 新左翼運動を総括するの視点(覚書)(下)

国★際★情★報
格差社会と環境劣化
中国共産党第17回党大会の特徴(下)
室井健二 

 中国共産党が行き詰まった「官僚的指令経済」方式から資本主義化策へ転じてからおよそ四半世紀が経った。
 転換に際して小平は「改革・解放」と「先富」論を説き、「先に豊かになれる者から豊かになれ」と万人が豊かになれるかの幻想をふりまいた。資本主義の合法化を推進した江沢民は「三つの代表」論をもってブルジョア化を正当化した。
 今次大会で胡錦涛は「科学的発展観」なるものを提起した。解説によると、「持続的で調和のある経済的発展をめざす」ことを意味するという。貧富の差の拡大、階級分化、汚職・腐敗の横行、環境劣化など諸々の社会的矛盾が顕在化し、社会の調和が乱れたことの表明でもある。資本主義とその発展が産み出す諸矛盾を果たして調和することができるのかというのが、胡錦涛共産党が当面する緊要な課題となっていることは疑いない。


〈高度成長と格差社会の出現〉

 外資導入から始まった資本主義転換は、中国経済に「世界の工場」化現象をもたらした。胡錦涛の五年間に、中国経済は10%を超える高度成長を記録し、安価な中国製品は世界中をかけめぐっている。中国は莫大な貿易黒字国となると同時に、いまでは資本輸出国にも転じた。13億の人口をかかえいまや有数の資源・エネルギー消費国、食糧輸入国ともなった中国経済の動向が世界経済のなかでますます無視できない存在となっていることは事実である。
 ところで、このような中国経済の資本主義的転換と発展は、中国社会に急激な変貌をもたらした。際立った特徴は、社会の階級分化であり、格差社会の出現である。ケ小平は誰もが豊かになれるかの幻想をばらまいたが、それはまやかしだった。中国民衆が体験したのは、失業、苦役労働、社会保障消失、貧窮と生活不安、環境劣化などの予想だにしなかった現実である。

〈特権官僚と新興ブルジョア〉

 中国社会にはきわめて短期間に巨万の富を手にした富裕層が生まれた。世界の長者ランキングに入る何兆円もの新興成金まで現れて、世間を驚かせている。
 このような急速な新興ブルジョアの形成には、特殊中国的な特徴がある。中国の富裕層は中国共産党の高級官僚に代表される特権官僚層と新興のブルジョアジーから形成されている。資本主義転換に際して党官僚は、自らの周辺の血縁・地縁者を新興ブルジョアに仕立てた。外国企業の誘致と合弁、国有企業の民営化や新たな起業、国有地の払い下げと売買等。情報と許認可権限を独占する特権官僚は、資本主義転換に伴うあらゆる形態にからみ、人材と資金を調達し、巨万の社会的富を横奪した。
 党官僚の子弟や縁者は有力企業の重役である。こうした特権官僚と新興ブルジョアジーとの特殊な結託が産まれ発展している。先に紹介した前政治局員曽慶紅の息子・曽偉の汚職事件は中国における新興ブルジョアの誕生とその利権構造の一端を示す事例である。
 この間、中国全土で、国有地売却や住民強制退去による土地開発が展開され、あちこちで土地成金が生まれる土地バブル現象が起こっている。その背景には党官僚との結託が存在する。農民や都市住民の土地強制収用反対に赤裡々な公権力弾圧が断行されるのもこのような背景からである。

〈農民層の分解と都市流出〉

 95%以上を占める大多数の中国民衆の上には、新たな災難がのしかかってきた。まず人口の大多数を占める農民だが、資本主義化の波をもろに受けることとなった。
 毛沢東時代から農業と農民は政権の主な収奪源だった。農民戸籍の者は都市へ出ることを禁じられた。大躍進期に農村で数千万の餓死者が出た秘密もここにある。いまや乱開発に狂奔する地方政府は重税と土地収用で農民をますます農業では食えない状況に追い込んでいる。
 共産党の政策も以前とは変わった。農民戸籍でも都市流出が黙認されるようになった。農村から安い労働力を供給するためである。外資導入と「世界の工場」化のためには、安価な労働力の供給と存在が必須の条件である。この間、三億人の農民が出稼ぎに都市へ流出したとも言われている。
 いま中国の三農(農業・農村・農民)問題は有史いらいの大激動の渦中にあるともいえよう。農民の子弟や主人までが都市へ出稼ぎに行く農村は、今後どうなるのか。すでに食糧転入国に転じた中国農業は、土地劣化も進行するなかで、今後どうなるのか。
 農民暴動の頻発が伝えられる中国の三農問題に対して、胡錦涛共産党は、どのような調和策をとるのか。策は見えない。

〈無権利下の賃金奴隷制〉

 外国資本を始めとする中国企業にとっての魅力は、一つは低賃金労働力の存在であり、もう一つは、労働者の無権利状態である。そしてこれらの有利な条件を、中国共産党が保証していることである。
 中国労働者階級の状態は、まことに劣悪である。国有企業の民営化に際して、労働者は、わずかの補償で丸裸同然に街頭に放り出されている。共産党が取仕切る労働組合は、何の役にも立たない。農村から出てきた農民は、労働力商品として買いたたかれる。青年労働者は、働き口にありつけても、年輩農民は日雇いの保証もない。農村戸籍者には、住宅も医療や教育も、なんらの社会保障も適用されない。都市流出者は身を寄せ合ってはいつくばるように生きていかねばならない。
 労働者が労働組合を結成することも、まして集団的に雇い主に劣悪な雇用条件の改善を要求して闘争することも許されない。低賃金と劣悪な労働条件に甘んじろというわけである。共産党が労働者を抑圧し、その反抗を防いでくれるのだから、資本家にとっては得難い存在である。

〈環境劣化と無策〉

 中国は、世界でもトップクラスの環境劣化国に、急成長した。政権の無為無策が、劣化に拍車をかけた。
 工場は無制限に汚水をたれ流し、有害なばい煙をはき出した。商品作物のために危険な農薬と化学肥料が使われた。長江には魚が生息できなくなり、太湖周辺の住民は、飲料水が飲めなくなった。北京で青空のみえる日は、少ない。大気汚染と地下水汚染、土地劣化は、短期間に異常なまでに進行した。住民が公害病を訴えても、何の音沙汰も補償もない。
 資本主義化による高成長と利得に目がくらんで、環境劣化など先の問題とみなしてきたつけが、一挙に顕在化した。胡錦涛は、あわてて環境重視を打ち出したが、特別に緊急な対策が講じられるわけでもない。
 胡錦涛共産党のこれからの五年間には、階級矛盾と民族矛盾、さらに諸々の社会的矛盾が、さらに先鋭化してくるだろう。警察国家を背骨とした共産党政権には、いまのところ無策の策しかみえてこない。(了)

■寄稿
新左翼運動を総括するの視点(覚書)(下)

川島進一 

(5)レーニン主義の再検討 ―帝国主義論と前衛党

 新左翼理論のベースになったレーニン主義について、帝国主義論と前衛党論について、若干検討したい。

@帝国主義の変化
 かつてレーニンは、「資本主義はその基本的な属性を継続しつつ、一定の段階で、若干の基本的属性が反対物に転化しはじめた」として、帝国主義論を書いた。今や、その帝国主義は、その基本的属性を継続しつつ、国家間戦争を繰り返していたレーニンの時代とは大きく変容するに到った。新しいグローバリズムは、「帝国」と称するよりは、「後期帝国主義」と言った方がよいであろう。アメリカ以外の帝国主義は単独で世界を分割支配する力を失い、帝国主義間の対立は、アメ帝への他帝国主義国の「独自利害に基づく抵抗」というレベルを超えることができない。他方、アメ帝に対抗できる正規軍の不在という中で、「戦争」は地域紛争・「帝国の内戦」という性格を色濃くもつようになった。
 民衆の様相もまた、変化した。フォーディズムからポストフォーディズムへ、同質の工業的賃金労働者(プロレタリアート)が時代をリードする典型的存在とは最早言えない。様々な形態での労働があらゆる回路で金融資本に従属し、搾取されている。急速な発展の影に、出口のない停滞が存在している。非物質的生産と多様性がその特徴をなし、全体の傾向的性格を規定している。非物質的生産とは、情報通信業や医療福祉業界等、社会的関係性・共同性を(賃労働という疎外労働の下で)生産するものと言える。直線的な生産構造からネットワーク状の構造への転換が見られる。
 新左翼運動の理論的前提であった「レーニン主義」時代とは、社会的生産の様相、時代背景が変化しているのである。
A前衛党論
 レーニンは、1902年『なにをなすべきか』で、「民主主義的原則の適用は不可能である」「100人の愚者より10人の賢者を」という強烈な逆説とともに、強度の中央集権主義的な非公然的前衛党を提起した。
 これは、非合法化の弾圧と、軍事的色彩の強い闘争に適応する組織論であった。そういうものとして、闘争組織に不可欠の性格を提起したものと言える。
 他方、このような中央集権制の強い組織は、スターリン主義に典型的なように、権力を奪取し、あるいは、組織が長期に存在していく時に、民主主義の抑圧と、組織の民衆からの疎外を生んでいくようになった。
 我々は、このような反省から組織における民主主義の問題や、自治、複数主義といった原則を強く確認していかなければならない。
 他方、@で確認したように、今日の被搾取民衆の状況も、多様性と複雑さ、非物質的生産の拡大というように、20世紀前半とは明らかに様相を異にしている。
 社会を変革するためには、あらゆる領域とあらゆる形態で、民衆が声を上げ、決起し、直接行動することが必要であろう。ロシア革命や中国革命では、民衆は識字率の低さに示されるように、圧倒的に情報とコミュニケーションから疎外されていた。しかし、現在は、情報が溢れ、インターネット等を利用して、民衆個々人が大いにコミュニケーションすることができる。そこから民衆の闘争のあり方も大きく変化しているのである。
 レーニン主義の教条化を廃し、前衛党もその形態を新しい闘争に適応するものに変化させなければならない。中央的機能を持つ闘争組織とともに、多中心的なネットワーク運動の重要性が増していると考える。


 第85号 中国共産党大会(下) 新左翼運動を総括するの視点(覚書)(下)